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東京地方裁判所 平成4年(行ウ)101号 判決

埼玉県所沢市緑町一丁目二〇番一-九〇六号

原告

今泉隆平

右訴訟代理人弁護士

柴田嘉逸

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

前田勲男

埼玉県所沢市並木一丁目七番

被告

所沢税務署長 古平伸吾

右被告ら訴訟代理人弁護士

岩渕正美

右被告ら指定代理人

秋山仁美

神谷宏行

被告国指定代理人

金子秀雄

水野浩

被告所沢税務署長指定代理人

瀧正弘

齋藤清幸

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

一  主位的請求

1  被告国は、原告に対し、金五八七九万八八〇〇円及びこれに対する昭和六三年一一月三日から還付のための支払決定の日まで年七・三パーセントの割合による金員を支払え。

2  被告所沢税務署長が原告に対し昭和六三年一二月一三日付けでした昭和六二年分の所得税についての過少申告加算税五二三万円及び重加算税七〇二八万七〇〇〇円の各賦課決定は無効であることを確認する。

二  予備的請求

被告所沢税務署長が原告に対し昭和六三年一二月一三日付けでした昭和六二年分の所得税について過少申告加算税五二二万円及び重加算税七〇二八万七〇〇〇円の各賦課決定を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告が所有していた土地の譲渡による昭和六二年分の分離課税の長期譲渡所得に関して、原告の修正に基づいて被告所沢税務署長(以下「被告署長」という。)がした過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定(以下、それぞれ「本件過少申告加算税」及び「本件重加算税」といい、右各賦課決定を合わせて「本件賦課決定」という。)につき、原告が、主位的に、右修正申告は無効であり、これに基づく本件賦課決定も無効であるとして、被告国に対し、右修正申告により納付した所得税を誤納金としてその還付を求めるとともに、被告署長に対し、本件賦課決定の無効確認を求め、予備的に、被告署長に対し、本件賦課決定の取消しを求めている事案である。

一  当事者間に争いのない事実

1  原告は、別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有していた。

2  原告は、昭和六一年六月ころ、富士建設株式会社(以下「富士建設」という。)に対し、本件土地を三・三平方メートル当たり一五〇万円で売却する約束をした。

3  本件土地は、昭和六一年中に、別紙物件目録二ないし五記載の各土地(以下、同目録二及び三記載の土地を合わせて「甲土地」、同目録四記載の土地を「乙土地」、同目録五記載の土地を「丙土地」という。)に分割された。

4  甲土地については、昭和六一年九月二〇日に農地転用の届出がされ、同月三〇日付け売買を原因として、同日、富士建設への所有権移転登記がなされており、原告と富士建設との間の同月一〇日付けの土地売買契約書には、甲土地を売買代金八億二八六九万円で原告から富士建設に売り渡す旨の記載がある。

5  乙土地については、昭和六二年五月一四日に農地転用の届出がされ、同月二〇日付け売買を原因として、同日、富士建設への所有権移転登記がなされており、原告と富士建設との間の同日付けの土地売買契約書には、乙土地を売買代金八億二八五一万円で原告から富士建設に売り渡す旨の記載がある。

6  丙土地については、昭和六二年三月六日付け寄附を原因として、同月九日、新潟県南魚沼郡塩沢町(以下「塩沢町」という。)への所有権移転登記がなされ、同月一三日に農地転用の届出がされ、さらに、同月一八日付け売買を原因として同月二四日に武田住宅総合サービス株式会社(以下「武田住宅」という。)への所有権移転登記がなされている。

7  原告は、甲土地の譲渡による分離課税の長期譲渡所得については、昭和六一年分の確定申告において申告し、乙土地の譲渡による分離課税の長期譲渡所得については、昭和六二年分の確定申告(以下「本件確定申告」という。)において申告し、丙土地の寄附については、全額非課税であるとして申告しなかった。

なお、本件確定申告によれば、総所得金額は四万一〇五〇円、分離課税の長期譲渡所得金額が七億八三五八万四六二円、納付すべき税額が一億九三七二万六〇〇〇円となる。

8  原告は、被告署長のしょうよう等に基づく昭和六三年一一月一日付けの修正申告(以下「本件修正申告」という。)においては、甲土地、乙土地及び丙土地のすべての土地の譲渡による分離課税の長期譲渡所得について、昭和六二年分の所得として申告した。ただし、丙土地の寄附に代えて、塩沢町に現金五億八八四万円及び南洋美術品(七〇〇〇万円相当)を寄附したものとして、所得税法七八条により五億七八八三万円の寄附金控除をして申告した。

本件修正申告によれば、総所得金額は四万一〇五〇円、分離課税の長期譲渡所得金額は二三億五八〇三万三九六二円、納付すべき税額は四億四六八六万八〇〇円となる。

被告署長は、本件修正申告に伴い、昭和六三年一一月四日付けで昭和六一年分の所得税の減額更正処分を行い、これにより発生した還付金一億九四三三万六〇〇〇円は、昭和六二年分の所得税に充当された。

被告署長は、昭和六三年一二月一三日付けで本件賦課決定を行った。

なお、本件確定申告、本件修正申告、本件賦課決定及びこれに対する不服申立ての経緯は別表のとおりである。

二  過少申告加算税及び重加算税について

国税通則法(以下「通則法」という。)六五条一項は、期限内申告書が提出された場合において、右申告書に係る課税標準等又は税額等について修正申告書の提出又は更正があり、これらにより納付すべきこととなる税額があるときは、過少申告加算税が賦課される旨規定している。ただし、右納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちその修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、その部分について過少申告加算税を課さないこととし(同条四項)、また、修正申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、過少申告加算税を課さないこととされている(同条五項)。

また、通則法六八条一項は、過少申告加算税の規定に該当する場合において、納税者が国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し(以下「隠ぺい仮装行為」という。)、隠ぺい仮装行為に基づき納税申告書を提出していたときは、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(以下「基礎となる税額」という。)に係る過少申告加算税に代え、重加算税を課すると規定し、ただし、基礎となる税額の計算の基礎となるべき事実のうち、隠ぺい仮装行為に基づくものでないことが明らかであるものがあるときは、右基礎となる税額から、隠ぺい仮装行為でない事実に基づく税額として政令で定めるところにより金額を控除した後の税額を基礎として、重加算税を課すると規定している。そして、通則法施行令二八条一項は、右の政令で定めるところにより計算した金額とは、隠ぺい仮装行為でない事実のみに基づいて修正申告書の提出等があったものとした場合において納付すべき税額とする旨規定している。

三  本件賦課決定の根拠及び適法性についての被告らの主張

1  修正申告のしょうようについて

原告は、甲土地の譲渡による分離課税の長期譲渡所得については、昭和六一年分の確定申告において申告し、乙土地の譲渡による分離課税の長期譲渡所得については、本件確定申告において申告し、丙土地の寄附については、全額非課税であるとして申告しなかったものであるが、所沢税務署所部職員である川手今朝人(以下「川手係官」という。)らの調査により、本件土地(甲土地、乙土地及び丙土地)は、実体として、昭和六一年に富士建設に対して一括譲渡されたものであること、丙土地の塩沢町への寄附の事実はなく、右寄附は仮装されたものであることが判明した。

そして、本件土地はいずれも農地であり、農地については、原則として農地転用の許可又は届出の効力発生日を譲渡所得についての収入すべき時期とされており、最後に農地転用の届出の効力が発生した乙土地の農地転用届出書の受理日である昭和六二年五月一四日の属する昭和六二年が右一括譲渡に係る収入すべき時期として最も適当であると判断された。

また、塩沢町が丙土地の譲渡の対価として受領したとする原告から供与された現金五億八八四万円及び南洋美術品(時価七〇〇〇万円)は、原告が塩沢町に寄附したものと認めることができる。

そこで、川手係官らが、原告に対して、右内容にそった修正申告をしょうようした結果、本件修正申告がなされた。

本件修正申告によって新たに納付すべきこととなる税額は二億五三一三万四八〇〇円となるが、本件修正申告は通則法六五条四項及び五項に規定する場合に該当しない。

また、丙土地の塩沢町への寄附は、そのような事実がないにもかかわらず、租税特別措置法(以下「措置法」という。)四〇条一項の非課税の特例の適用を受けるべき仮装されたものであり、通則法六八条一項の隠ぺい仮装行為に当たる。

2  過少申告加算税の額について

通則法六八条一項及び同法施行令二八条一項に従い、重加算税賦課の対象とならない過少申告加算税額を計算すると、次のとおりとなる。

(一) 隠ぺい仮装行為に基づかない事実のみに基づいて修正申告をした場合の納付すべき税額 二億四五七八万二二〇〇円

(1) 本件修正申告に係る総所得金額 四万一〇五〇円

(2) 分離課税の長期譲渡所得金額 一五億七〇六三万五九六二円

右金額は、甲土地及び乙土地の譲渡益一五億七三九四万円から、損益通算により、原告が、昭和六二年一二月一六日に、株式会社今泉に対して所沢市弥生町二九〇一番地所在の建物を譲渡した際の譲渡損失二三〇万四〇三八円(譲渡収入三五一万三四一七円から取得費五八一万五四五五円及び譲渡費用二〇〇〇円を控除した金額)を控除し、措置法三一条四項(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)による長期譲渡所得の特別控除額一〇〇万円を控除した金額である。

(3) 所得控除額 五億七九五四万七三〇〇円

右金額は、確定申告に係る所得控除額七一万七三〇〇円(基礎控除と社会保険料控除)と本件修正申告で加算された所得控除額五億七八八四万円(原告が塩沢町に寄附した現金五億八八四万円と南洋美術品の時価七〇〇〇万円の合計額から所得税法七八条一項により一万円を控除した金額)との合計額である。

(4) 課税総所得金額

右金額は、右(1)の総所得金額から前期(3)の所得控除額のうち四万一〇五〇円を控除した額である。

(5) 分離課税の課税長期譲渡所得金額 九億九一一二万九〇〇〇円

右金額は、右(2)の金額から、右(3)の金額のうち、右(4)のとおり総所得金額に相当する額を控除した後の残額五億七九五〇万六二五〇円を控除した額(ただし、通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数切り捨て後のもの)である。

(6) 所得税額 二億四五七八万二二〇〇円

右金額は、右(5)の金額に係る所得税額であり、措置法三一条の三(昭和六三年法律第四号)により、右(5)の金額のうち、四〇〇〇万円以下の部分については二〇パーセントの、四〇〇〇万円を超える部分については二五パーセントの税率をそれぞれ乗じて、次のとおり算出した税額(ただし、通則法一一八条の規定により一〇〇円未満の端数切り捨て後のもの)の合計額である。

四〇〇〇万円以下の部分 八〇〇万円

四〇〇〇万円を超える部分 二億三七七八万二二〇〇円

(二) 当初の確定申告による納付すべき税額 一億九三七二万六〇〇〇円

(三) 過少申告加算税の課税対象となる税額 五二〇五万六〇〇〇円

右金額は、前記(一)の金額から前記(二)の金額を控除した額であり、通則法施行令二八条の二に規定する隠ぺい仮装行為でない事実のみに基づいて修正申告をした場合に、原告が新たに納付すべき税額である。

(四) 過少申告加算税の額

右金額は、前記(三)の金額(ただし、通則法一一八条三項により、一万円未満の端数切り捨て後のもの)に通則法六五条一項に規定する一〇パーセントの税率を乗じた金額である。

3  重加算税について 七〇三七万四五〇〇円

右金額は、本件修正申告により新たに納付すべき税額二億五三一三万四八〇〇円から、前記2(三)の過少申告加算税の対象となる税額を控除した残額二億一〇七万八六〇〇円を基礎として、右残額(ただし、通則法一一八条三項により、一万円未満の端数切り捨て後のもの)に通則法六八条一項に規定する三五パーセントの税率を乗じた金額である。

4  本件賦課決定の適法性について

(一) 本件賦課決定の加算税の額及びその基礎となる所得税の額は以下のとおりである。

(1) 本件重加算税の額 七〇二八万七〇〇〇円

基礎となる所得税の額 二億八二万八六〇〇円

(2) 本件過少申告加算税の額 五二三万円

基礎となる所得税の額

(二) 被告らが、本訴において主張する加算税の額及びその基礎となる所得税の額は前記のとおり以下の額となる。

(1) 重加算税の額 七〇三七万四五〇〇円

基礎となる所得税の額 二億一〇七万八六〇〇円

(2) 過少申告加算税の額 五二〇万五〇〇〇円

基礎となる所得税の額 五二〇五万六二〇〇円

(三) 本件重加算税の額は、右(二)(1)の重加算税の額の範囲内である。本件過少申告加算税の額は、右(二)(2)の過少申告加算税の額を二万五〇〇〇円上回るものであるが、重加算税と過少申告加算税は別個独立のものではなく、重加算税は、過少申告加算税として賦課されるべき額に、一定の過重額に当たる金額を賦課するという法的性質を有するものであるところ、本件賦課決定の基礎となる所得税の額と右(二)の基礎となる所得税の額の合計額は同額であり、本件賦課決定における加算税の合計額は、右(二)の加算税の合計額の範囲内である。

したがって、本件賦課決定は適法である。

四  争点

被告署長は、以下のとおり、本件土地(甲土地、乙土地及び丙土地)は一括して富士建設へ譲渡されたものであり、丙土地の塩沢町への寄附は仮装行為であるとして、本件賦課決定を行ったものであるが、原告は、当初申告どおり、甲土地は昭和六一年に、乙土地は昭和六二年にそれぞれ順次譲渡されたものであり、丙土地は塩沢町へ寄附されたものである旨主張し、本件修正申告は、川手係官らの強いしょうよう等により事実に反してなされた無効なものであり、仮に、本修正申告が有効であるとしても、本件賦課決定は違法である旨主張する。

したがって、本件の争点は、本件土地が一括譲渡されたものか否か、丙土地の寄附が仮装か否か、右事実に係る争点を前提として、本件修正申告が無効か否か、本件賦課決定が違法か否かという点であり、この点に関する当事者双方の主張の要旨は、以下のとおりである。

1  本件土地が一括譲渡されたものか否かについて

(一) 被告らの主張

本件土地については、昭和六一年六月中に、原告から富士建設に一括して譲渡する旨の売買契約が締結されている。本件土地は、国土利用計画法(以下「国土法」という。)の届出義務を免れるために、三区画に分割され、それぞれ、原告を主張とする売買契約書が作成され、契約年は、甲土地については昭和六一年、乙土地及び丙土地については昭和六二年とされ、丙土地の買主はみのり管工株式会社(以下「みのり管工」という。)とされている。しかしながら、みのり管工は、富士建設に名義を貸したものにすぎず、また、各売買代金額の合計額は、当初の本件土地の売買代金と同額であり、乙土地の売買代金については、昭和六一年一一月二八日に原告が株式会社三菱銀行所沢支店(以下「三菱銀行」という。)から売買代金相当額を借り入れ(なお、借入額と売買代金額の差額は、富士建設名義の口座に振り替えられている。)、その借入金を富士建設が原告に代わって返済するという方法で決済され、丙土地の売買代金については、昭和六一年一〇月三一日に原告がインターナショナル・ファクタリング株式会社(以下「インターナショナル・ファクタリング」という。)から売買代金相当額を借り入れ、その借入金を富士建設が原告に代わって返済するという方法で決済されていることからすれば、本件土地は、当初の約定どおり、富士建設に一括譲渡されているものである。

(二) 原告の主張

原告は富士建設に対し、当初、本件土地を一括して売却をする約定をしたが、右譲渡につき国土法の規制を受け、原告の希望価格での譲渡が困難になったことから、右一括譲渡は取りやめられ、ます、甲土地だけが譲渡されることになったものである。原告の三菱銀行及びインターナショナル・ファクタリングからの借入れは、当時、原告の郷里である塩沢町の薬照寺に古美術品を寄贈する資金を必要としていた原告が、乙土地及び丙土地を他に売却することを考えていたところ、乙土地及び丙土地の取得を望んでいた富士建設が、将来乙土地及び丙土地を間違いなく売り渡してもらうことを条件に、原告の必要としている資金を金融機関から借り入れることができるよう斡旋し、その利息を負担することとしたものである。各金融機関からの借入金額が乙土地及び丙土地の売買予定金額と同額になったのは、富士建設が一方的に行ったものであり、原告はこれに関与しておらず、右借入れは原告自身の借入れである。したがって、右借入れをもって乙土地及び丙土地の売買代金の決済といえないことは明らかである。

2  丙土地の寄附が仮装か否かについて

(一) 被告らの主張

前記1(一)のとおり、丙土地については、甲土地及び乙土地とともに、富士建設に一括譲渡されたものであり、更に昭和六二年一月二〇日付けでみのり管工、実質的には富士建設から武田住宅に譲渡する旨の売買契約が成立しているにもかかわらず、原告は、措置法四〇条の非課税措置の適用を受けるべく、塩沢町への寄附を割り込ませ、実体的に存在しない塩沢町への寄附があったように仮装したものである。すなわち、丙土地は、登記簿上は、原告から塩沢町へ寄附され、更に武田住宅に転売されたことになっており、契約書上は、塩沢町からみのり管工に売却されたことになっているが、丙土地については、みのり管工、実質的には富士建設が転売先である武田住宅から受領した転売代金の一部を、インターナショナル・ファクタリングからの原告名義の借入金の返済に当てているのみで、塩沢町は、丙土地の売買代金を受領していない。塩沢町における丙土地の売買代金についての経理処理は、同年三月二〇日付けで五億八八四万円、同月二五日付けで三億二〇〇〇万円の収入処理という形でなされているが、みのり管工が右各金員を塩沢町に支払った事実はなく、右五億八八四万円については、同月一九日に原告が寄附の目的で送金したものであり、右三億二〇〇〇万円については、原告と塩沢町との間で作成された原告所有の南洋美術品を塩沢町に三億二〇〇〇万円で売却する旨の同月二〇日付けの物品売買契約書上の代金を、塩沢町が原告に支払うことなく、丙土地の売買代金の残金として収入したことにしているものである。

(二) 原告の主張

原告は、郷里の塩沢町に自らが収集した美術品を展示する町立博物館を建築すべく、その建築資金とするため、従来から原告所有の土地の寄附を行っていたが、右博物館の建築資金が不足することとなったので、更に丙土地を塩沢町に寄附することを決意したものである。丙土地については、当初、富士建設へ売却する約束があったが、右約束は取りやめになっているところ、富士建設は、丙土地の取得を希望しており、また、塩沢町としても、博物館の建築資金とするためには、丙土地を売却する必要があったので、原告が丙土地を塩沢町へ寄附し、富士建設又はその指定する買主が寄附を受けた塩沢町から買い受けることとしたのである。なお、原告とみのり管工との間で作成された丙土地についての売買契約書は、みのり管工の転売交渉に役立てるために作成されたものにすぎず、手付金や違約金の規定もなく、代金支払時期も明確でないから、右契約書作成時点では丙土地の売買契約は実行されていないし、丙土地がみのり管工から転売された事実も原告は全く知らなかったところである。

また、塩沢町が丙土地を売却するに当たっては、丙土地に設定された抵当権を原告において抹消する必要があったところ、原告は塩沢町に対し、丙土地の抵当権抹消資金として、八億二八八四万円から塩沢町が原告に対して支払うべき南洋美術品代金三億二〇〇〇万円を差し引いた五億八八四万円を送金したものであり、塩沢町は、右送金によって、みのり管工から支払われるべき丙土地の売買代金が抵当権抹消費用として流用されることを了承したものである。その後丙土地の売買代金は、昭和六二年三月二四日にみのり管工から塩沢町へ支払われ、塩沢町はこれを受領して領収書を発行した上、右代金が直ちに抵当権抹消のために流用されたものである。そして、塩沢町は、既に原告から右五億八八四万円の送金を受け、また、原告に支払うべき南洋美術品代金三億二〇〇〇万円について、同日、原告から領収書を受領しており、これによって、原告と塩沢町の間の精算も終了し、塩沢町は、丙土地の売買代金八億二八八四万円を確保したことになるのである。

以上のとおり、丙土地は塩沢町に寄附されたものである。

3  本件修正申告が無効か否かについて

(一) 原告の主張

本件修正申告は、原告が本件土地を一括して売却し、丙土地を塩沢町に寄附していないとの事実に基づいてなされたものであるが、右のような事実がないことは、前記主張のとおりであり、原告が本件修正申告をなしたのは、所沢税務署担当者が、原告の代理人であった樋口税理士を通じて、原告に対して執拗に修正申告をしょうようし、修正申告に応ずれば、示された納税額ですべてが解決し、それ以上の不利益を受けることがないと考えた原告が、修正申告を勧める樋口税理士との関係をも考慮して、その意思に反し、事実でない事実に基づく本件修正申告に応じたものであり、本件修正申告は、明白かつ重大な錯誤によるものであるから無効である。

(二) 被告らの主張

所得税のように申告納税制度が採られている場合に、錯誤等により税額を過大に申告した際の是正は、本来法の定めた方法によって行われるべきであり、いったんなされた申告は、申告内容の過誤の重大性、明白性、申告の過誤を生ずるに至った原因、その他一切の事情を斟酌して、法定の手続によってのみその是正をし得るとすることが納税者にとって極めて酷であり、著しく課税の公平を害するというような特段の事情の存する場合でない限りは、法定の手続によらないでその無効を主張することはできないというべきである。そして、修正申告については、それが既にした確定申告の内容を再検討した上行われるもので、確定申告の場合と異なり申告の期限も定められておらず、納税者としては十分その内容を吟味してこれを行うべきことが予想される以上、修正申告を原則として争い得ないものとすることが納税者に不当に不利益を課するものとはいえないというべきである。

本件修正申告は、原告の所得税の調査を担当した川手係官らが、原告の税務代理人である樋口税理士に対し、その調査結果を説明の上、修正申告をしょうようし、原告が樋口税理士の説明等によりこれに応じてなされたものであり、原告の意思に反してなされたような事実はない。

4  本件賦課決定が違法か否かについて

(一) 被告署長の主張

前記のとおり、本件確定申告においては、原告は、本来本件土地が一括譲渡されたものとして申告すべきであったにもかかわらず、本件土地のうち丙土地を除き、二か年分に分けて申告した結果、長期譲渡所得の特別控除を二重に控除し、甲土地及び乙土地の課税長期譲渡所得金額に応ずる所得税の計算(措置法三一条の三第一項、ただし、昭和六三年法律第四号による改正前のもの)において、どちらにも課税長期譲渡所得金額のうち四〇〇〇万円以下の部分について二〇パーセントの税率を適用していることから、四〇〇〇万円を超える部分についての税率二五パーセントとの差から生じる所得税額を過少に申告する結果となったものである。したがって、本件修正申告により納付すべき税額は、右各過少申告を原因とするのであるから、これらについて、通則法六五条四項に規定する正当な理由にあたらなことは明らかである。

また、同条五項の更正があるべきことを予知してされたものでないときとは、税務署員がその申告に係る国税についての調査に着手して、その申告が不適正であることを発見するに足るかあるいはその端緒となる資料を発見し、これによりその後調査が進行し更正に至るであろうことが、客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達した後に、納税者がやがて更正に至るべきことを認識した上で修正申告を決意し修正申告を提出したものでないことを要するというべきである。本体においては、被告所部係官である川手係官らが、昭和六三年七月から原告に対する税務調査を始め、同年九月末までには、本件土地の一括譲渡及び丙土地の寄附の仮装についての事実を把握しており、原告も、更正に至ることを認識していたというべきであるから、本件修正申告が、更正があるべきことを予知してされたものでないといえないことは明らかである。

(二) 原告の主張

本件土地は、前記のとおり、一括譲渡されたものではなく、昭和六一年に譲渡された甲土地については、昭和六一年度の所得税の申告により、その譲渡所得に対する税金は納付済みであり、丙土地については、前記のとおり、塩沢町に寄附されたものであるから、右各土地の譲渡につき、昭和六二年の譲渡所得の計算の基礎とされなかったことに正当の理由があるというべきである。

また、原告は、本件修正申告をする必要はなかったものであるが、丙土地の転売代金の処理方法が適切でなかったことに目をつけた所沢税務署担当者が、丙土地の寄附をなかったこととし、その代わりに現金等の寄附があったこととしてこれにつき寄附金控除を認めるという条件を持ち出して、原告の税理士を通じて原告を強制的に説得して、本件修正申告をさせたものであり、本件修正申告は更正があることを予知してなされたものでもない。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  前記争いのない事実に加え、証拠(原告本人尋問の結果、証人八木貞夫、同井上治男及び同川手今朝人の各証言、適宜各項末尾に掲記した各書証)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、昭和六一年六月ころ、富士建設に対し、本件土地を三・三平方メートル(一坪)当たり一五〇万円で売却する約束をし、原告と富士建設との間で、八木貞夫を立会人として、同月二五日付けの「土地売買に関する準備書面」と題する書面(乙五号証、以下「本件準備書面」という。)が作成された。本件準備書面には、原告から富士建設に、本件土地を売買代金二四億八六〇四万円(坪単価一五〇万円に本件土地の面積一六五七・三六坪を乗じた価格)で譲渡すること、原告が、富士建設の費用負担により、あらかじめ本件土地を三区画に分割した上で譲渡の手続をすることを認めること、本件土地のすべての決済を昭和六一年一一月中に完了すること、本件準備書面の確認締結と同時に、富士建設が、物件購入準備金として五〇〇〇万円を原告名義の預金口座に預託すること等が記載されている。原告は、右同日付けで富士建設から本件土地の売買準備金として、五〇〇〇万円を預かっている。

なお、本件準備書面に本件土地を三区画に分割することが記載されたのは、二〇〇〇平方メートル以上の土地の売買においては国土法の届出義務があり、右合意された価格では勧告を受けることが予想されたため、国土法による規制を回避するために三区画に分割することが考慮されていたことによるものであった。

原告と富士建設は、本件土地の譲渡について、国土法に基づく届出をし、昭和六一年七月二五日にこれが受理されたが、本件土地の売買価格を三・三平方メートル当たり一三〇万円以下とするように指導を受けたため、右届出を取り下げた。

本件土地は、昭和六一年八月一二日、土地の面積が二〇〇〇平方メートル未満となるよう甲土地、乙土地及び丙土地に分割された。なお、各土地の形状及び位置関係は、おおむね別紙図面のとおりである。

(甲一ないし六号証、乙五、八号証)

(二) 甲土地については、原告と富士建設との間で、昭和六一年九月一〇日付けの土地売買契約書(乙六号証)が作成されたところ、その売買代金は八億二八六九万円とされ、右預託された五〇〇〇万円の準備金を含む一億六五七三万八〇〇〇円を同日手付金として支払い、残金六億六二九五万二〇〇〇円を同月三〇日までに支払うものとされた。そして、右各金員は右契約書どおり支払われた。

なお、甲土地については、昭和六二年一月二〇日付け売買を原因として、同日に富士建設から株式会社武田工務店(以下「武田工務店」という。)への所有権移転登記がなされている。

(甲四、五号証、乙六、九、一〇号証)

(三) 乙土地については、原告と富士建設との間で、昭和六二年五月二〇日付けの土地売買契約書(甲一三号証)が作成され、その売買代金額は八億二八五一万円とされた。

原告は、昭和六一年一一月二九日付けで、三菱銀行から手形貸付の方法により、八億三〇〇〇万円を借り入れ、右借入金は、同日、同行の原告名義の普通預金口座に入金された。さらに、同日、右原告名義の普通預金口座から富士建設名義の同行の普通預金口座に一四九万円が振り替えられているが、右一四九万円は、右借入金と乙土地の売買代金の差額と一致する。また、右同日付けで、三菱銀行と富士建設の間において、右借入金は富士建設が昭和六二年九月三〇日までに原告に代わって金額返済するとともに、右借入金に対する利息及び担保設定に掛かる費用、印紙代等一切の諸費用は、富士建設が支払う旨の念書(乙一三号証)が取り交わされていた。そして、富士建設は、乙土地を株式会社穴吹工務店(以下「穴吹工務店」という。)に転売したが、穴吹工務店は、その譲渡代金の一部である九億円については、昭和六二年九月三〇日に振り出した自己宛小切手で富士建設に支払い、富士建設は、右小切手受領後、裏書を行い、同日、八億三〇〇〇万円については、右原告名義の手形借入れに対する元金の返済に当て、残額七〇〇〇万円については、三菱銀行の富士建設名義の普通預金口座に入金した。

(甲一、一三号証、乙一一ないし一三号証、四一号証の一及び二、四二号証の一及び二、四三ないし四五号証)

(四) 丙土地については、昭和六二年一月八日付けで、原告からみのり管工へ売買代金八億二八八四万円で譲渡する旨の、同月二〇日付けで、みのり管工から武田住宅へ売買代金一〇億七七〇〇万円で譲渡する旨の各売買契約書(乙七、二四号証)が作成されている。なお、右各契約書においては、丙土地の代金、残代金の支払時期は、それぞれ同年三月下旬、同月二四日とされている。

なお、みのり管工の代表取締役である井上貞夫は、富士建設の代表取締役である井上治男の弟であり、みのり管工の名義を富士建設に貸したものであった。また、武田住宅は、甲土地の転売先である武田工務店の関連会社であり、武田工務店ではなく、武田住宅が買受先となったのは、富士建設からの要請によるものであった。

原告は、昭和六一年一〇月三一日付けで、インターナショナル・ファクタリングから証書貸付の方法により、八億二八八四万円を借り入れ、右借入金は、同日、太陽神戸銀行所沢支店(現在のさくら銀行所沢支店、以下「太陽神戸銀行」という。)の原告名義の普通預金口座に入金された。なお、右借入金を担保債権として、甲土地及び丙土地を共同担保とする抵当権が設定された(甲土地の右抵当権は、昭和六二年一月一〇日に同日付けの解除を原因として抹消されている。)。右借入金の返済については、前記のとおり作成された売主をみのり管工名義、買主を武田住宅とする丙土地の売買契約書に基づき、昭和六二年一月二〇日に武田住宅より実質的には富士建設が受領した手付金二億一〇〇〇万円から、同日、富士建設が右借入金の元金分として二億円をインターナショナル・ファクタリングに入金し、同年三月二四日に実質的に富士建設が受領した残金のうち、額面六億二八八四万円の武田住宅振出しの小切手がインターナショナル・ファクタリングにより取り立てられる形で、残元金六億二八八四万円が富士建設からインターナショナル・ファクタリングに入金されており(丙土地の右抵当権は、同日付けの弁済を原因として、同月三〇日に抹消された。)、七〇〇〇万円を超える右借入金の取扱手数料及び利息相当額も富士建設が支払っている。

(甲4ないし六号証、乙七、一四ないし二二号証、二四、二五号証、四六号証の一ないし三、四七号証の一及び二、五一号証)

(五) 甲土地、乙土地及び丙土地は、それぞれの形状及び契約書上の売買時期を異にするが、その売買代金は、いずれも三・三平成方ーメートル当たり一五〇万円の単位を土地の面積に乗じた額とされており、各土地の売買代金の合計額は、本件土地の売買代金額と同額である。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右認定のとおり、本件土地は、当初富士建設が取得することを予定して、原告と富士建設との間で、売買代金、支払時期、支払方法等について具体的な話し合いがされていること、本件土地は、甲土地、乙土地及び丙土地に三分割されて、順次、譲渡された形式をとっているが、これは主として国土法による規制を回避するためにされたものであること、甲土地、乙土地及び丙土地の売買代金額の合計額は、当初から合意された本件土地の売買代金額と同額であること、右いずれの土地についても実質的には、富士建設が取得していること、乙土地及び丙土地の代金決済も、原告が金融機関から借入れをして、その借入金等を富士建設が原告に代わって返済するという方法によって行われ、実質的には、当初の合意どおり、昭和六一年一一月中に終了していることが認められる。これらの事実に照らせば、原告は、昭和六一年六月中には、既に富士建設との間で本件土地(甲土地、乙土地及び丙土地)を一括して譲渡する旨の売買契約を締結したものであり、本件土地は一括譲渡されたものと認めるべきである。

3  この点につき、原告は、当初は、原告も富士建設も本件土地を一括して売却をする約定をしたが、国土法の規制を受けて、右一括譲渡は取りやめられ、まず、甲土地だけが譲渡されることになったものである旨主張し、また、原告の三菱銀行及びインターナショナル・ファクタリングからの借入れは、当時、乙土地及び丙土地の取得を望んでいた富士建設が、将来乙土地及び丙土地の取得が実現することを条件に、原告に対し、金融機関を斡旋し、その利息を負担することとしたものであり、右借入れをもって乙土地及び丙土地の売買代金の決済とはいえないなどと主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、本件準備書面においては、既に、国土法の規制により一括譲渡が困難な場合には、三分割して譲渡することが考慮されており、形式的に分割譲渡の方法をとることによって、国土法の規制を免れることが当初から考慮されていること、右各金融機関からの借入金については、富士建設が、その利息等の負担のみならず、その元金も乙土地及び丙土地の転売代金によって返済していること、三菱銀行からの八億三〇〇〇万円の借入れについては、乙土地の売買代金との差額と一致する一四九万円が直ちに原告名義の普通預金口座から富士建設名義の普通預金口座に振り替えられて精算されており(この点につき原告が全く知らないとは考え難いところ、右差額の精算についての原告本人の供述及び証人井上治男の証言は極めて曖昧かつ不明確である。)、このことからすれば、右借入金が乙土地の売買代金の決済とは直接関係のない原告自身の借入れとは到底考えられないこと、原告は、古美術品の寄贈資金として借入れを行った旨主張しているが、乙一二、一五号証によれば、右借入金のほとんどは自己の定期預金として確保されていること等からすれば、原告の右主張は採用できないというべきである。

二  争点2について

1  前記争いのない事実に加え、証拠(原告本人尋問の結果、証人八木貞夫、同井上治男、同川手今朝人及び同貝瀬正好の各証言、適宜各項末尾に掲記した各書証)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 丙土地については、登記簿上、原告から塩沢町に寄附を原因として所有権移転登記がなされ、塩沢町から武田住宅に売買を原因として所有権移転登記がなされているところ、昭和六二年三月二日、原告、塩沢町庶務課用地係、太陽神戸銀行所沢支店長及び八木貞夫が原告宅に集まり、丙土地の取扱いについての次の内容の話し合いがされた。

(1) 原告とみのり管工との間の契約書が既に取り交わされているので、塩沢町へ移転後もこれにそって処理すること

(2) 塩沢町は、丙土地を原告からいったん寄附を受け、塩沢町が三月六日に議会の議決を受けて、三月九日に所有権移転登記をした後、速やかに原告に委任して丙土地をみのり管工に売り渡すこと

(3) みのり管工は、更に武田住宅に転売するので、塩沢町が行う所有権移転登記の相手方は武田住宅にすること

(4) 塩沢町からの所有権移転登記手続は三月二四日に行うこと

右話し合いの結果に基づき、塩沢町は、丙土地の売却に関する権限を原告に委任する旨の委任状を作成して交付し、丙土地について昭和六二年三月九日受付で、同月六日付けの寄附を原因として原告から塩沢町に、さらに、同月二四日受付で、同月一八日付け売買を原因として塩沢町から武田住宅に、それぞれ所有権移転登記がなされた。また、同月一八日付けで、売主を塩沢町、売主みどり管工、立会人を原告及び八木貞夫、売買金額を八億二八八四万円とする丙土地の売買契約書が作成された。

(甲一二号証、乙二六、二七号証)

(二) 塩沢町においては、丙土地の売買代金の経理処理に関して、

(1) 昭和六二年三月一九日に納入者を原告として五億八八四万円が納入された旨の同月二〇日付けの収入票

(2) 同月二四日に納入者を原告として三億二〇〇〇万円が納入された旨の同月二五日付けの収入通知票

右(1)の金員については、原告が、昭和六二年三月一九日、太陽神戸銀行から手形借入れの方法により四億円を借り入れ、同日、同行の原告名義の普通預金から払い出した一億八八四万円とともに、第四銀行塩沢支店の塩沢町名義の普通預金に振り込んだものである。右(2)の金員については、原告が昭和六二年三月二〇日付けで塩沢町との間で取り交わした原告所有の南洋美術品二九六六点を三億二〇〇〇万円で売却する内容の物品売買契約書における売買代金を原告に支払うことなく、同月二五日に、丙土地の売却代金の残金として収入したこととされたものである。すなわち、塩沢町は、右南洋美術品の購入費として三億二〇〇〇万円を第四銀行塩沢支店の当座預金口座から小切手により振り出し、右小切手に塩沢町名義の裏書を行った上、同支店の塩沢町名義普通預金口座に振り替えるという帳簿上の操作を行ったものである。

なお、右南洋美術品は、昭和六一年七月一〇日ころ、原告が、七〇〇〇万円で購入したものであり、原告は、当初これを塩沢町に寄附するつもりであったが、前記のとおり、これを塩沢町に三億二〇〇〇万円で売却することに変更した。右南洋美術品は、右物品売買契約書に記載された納期限であるである昭和六二年三月三一日ころに塩沢町に納品されているが、原告の所得税の調査において、川手係官から、七〇〇〇万円の購入原価の物品を三億二〇〇〇万円で売却したのであれば、二億五〇〇〇万円の譲渡益が発生する旨の指摘があったため、昭和六三年九月二一日に、原告と塩沢町との間で、原告が売却する物品の数量を変更する旨の物品売買変更契約書が作成され、南洋美術品については二〇〇〇点余りを追加し、図書、古文書を五〇〇〇点余り追加することとした。

(乙二八ないし三二号証、三三号証の一ないし三、三四ないし三九号証、五〇、五二号証)

(三) 昭和六二年三月二四日には、塩沢町関係者、みのり管工の代理人として井上治男、原告らが太陽神戸銀行に集まって、丙土地の移転登記のための書類のやり取りが行われたが、丙土地の売買代金の授受については、同日太陽神戸銀行に集まった武田住宅の関係者、みのり管工(富士建設)及びインターナショナル・ファクタリングの関係者の間で行われ、武田住宅がみのり管工に対し、丙土地の売買代金の残金八億六七〇〇万円を数通の小切手で支払い、右小切手のうち額面六億二八八四万円の小切手がインターナショナル・ファクタリングからの原告名義の債務の返済に当てられて決済された。一方、塩沢町がみのり管工から丙土地の売買代金を受領して領収書を発行したり、右売買代金をもって丙土地の抵当権抹消のために原告名義の負債の返済を行った事実は認められない。

(乙四六号証の一ないし三、四七号証の一および二、四八、四九号証)

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

なお、原告は、昭和六二年三月二四日に、塩沢町がみのり管工から売買代金を受領して領収書を発行しており、塩沢町の了解のもとに、右売買代金をもって丙土地の抵当権抹消のために原告の債務の返済に当てた旨主張し、証人八木貞夫及び同井上治男の各証人中にはこれにそう証言部分がある。しかしながら、証人八木貞夫の右売買代金及び領収書の授受に関する証言は曖昧かつ不明確であり、証人井上治男の証言も、塩沢町に六億二八八四万円の小切手を渡したというものの、塩沢町から受領したという領収書の額面が売買代金額である八億二八八四万円であるか六億二八八四万円であるかについては曖昧かつ不明確な証言に収支しており、一方、証人貝瀬正好の証言及び乙四八、四九号証には、塩沢町は丙土地の売買代金を受領しておらず、領収書も発行していない旨の証言部分及び記載部分があることからすれば、証人八木貞夫及び同井上治男の右証言部分は信用し難いものといわざるを得ない。また、塩沢町は、前記認定のとおり、原告から五億八八四万円の送金があった際にこれを既に丙土地の売買代金の一部として経理上処理をしている以上、改めて領収書の発行をするとは考えられないというべきである。さらに原告は、インターナショナル・ファクタリングからの借入れは原告自身の借入れであり、富士建設が原告名義の債務のうち二億円を返済したことについては、原告も塩沢町も知らなかった旨主張するが、そうだとすれば、塩沢町が受領すべき丙土地の売買代金が八億二八八四万円であるにもかかわらず、何故みのり管工から額面六億二八八四万円の小切手のみが交付されたのか、何故みのり管工から額面六億二八八四万円の小切手のみが交付されたのか、その事情について、塩沢町が何故疑義を述べなかったのか、また、塩沢町がいくらの領収書を発行すべきことになるのかが全く説明でできないことになるのみならず、かえって、塩沢町は、丙土地の売買に関与していなかったことをうかがわせるものであって、原告の主張に係る前記事実があったものとは到底認められないというべきである。

2  以上の認定事実及び前記二1認定事実のとおり、原告は、丙土地を塩沢町へ寄附したとする手続以前に、みのり管工名義を使用して、実質的に富士建設に売却しており、これを武田住宅に譲渡する昭和六二年一月二〇日付けの売買契約書が作成されていること、丙土地の寄附を受けたとされる塩沢町においては、これを転売する際の実質的な売主としての行動を何らとっておらず、原告から現金五億八八四万円の送金をうけただけで、丙土地の転売先であるみのり管工から譲渡代金を受領してはいないことからすれば、塩沢町が丙土地を取得した実体がないというべきであり、真実は、丙土地が、原告から富士建設に売却され、更に武田住宅に転売されたにもかかわらず、原告が、その過程に形式的に塩沢町に対する丙土地の寄附を割り込ませ、仮装行為を行ったものというべきである。

3  この点に対し、原告は、丙土地については、富士建設へ売却する約束があったが、これは取りやめとなり、未だ富士建設への売買が完結していないところ、原告が丙土地を塩沢町へ寄附することとなったので、富士建設又はその指定する買主が寄附を受けた塩沢町から買い受けることとしたものである旨主張する。

しかしながら、前記一認定のとおり、丙土地は、甲土地及び乙土地とともに、一括して富士建設に譲渡されているものであり、昭和六二年一月二〇日には、みのり管工名義で実質的には富士建設と武田住宅との売買契約書が作成され、富士建設ではその手付金も受領し、その大部分を、原告名義の借入金の元本の返済に当てていることからすれば、原告の右主張は採用できないというべきである。

なお、原告は、みのり管工との間で作成された丙土地についての売買契約書は、みのり管工の転売交渉に役立てるために作成されたものにすぎず、手付金や違約金の規定もなく、代金支払時期も明確でないから、右契約書は正式なものではなく、その作成時点では売買契約は実行されていない旨主張するが、前記認定のとおり、昭和六一年一月三一日に、既に右契約書における売買代金と同額の金員が原告名義の預金口座に入金されることにより、売買代金の決済が行われているのであるから、手付金や違約金の規定がないのは、むしろ当然であり、代金支払時期が明確に特定されていないとしても何らの支障はないというべきであるし、右契約書は、丙土地と同様に借入金による代金決済がなされ、原告自身が真正に取引がなされたとする乙土地に係る売買契約書と同様の様式であるから、これが正式の契約書ではないとする原告の主張は採用できないというべきである。さらに、原告は、右富士建設からの転売の事実等を全く知らなかった旨主張しているが、原告自身、富士建設と原告との丙土地の売買契約書は転売交渉のために作成されたものである旨の主張をしており、右手付金の使途からしても、原告が転売等の事実を全く知らなかったものとは考えられない。

また、原告は、原告が塩沢町へ送金した五億八八四万円は、丙土地の抵当権抹消資金として、八億二八八四万円から、塩沢町が原告に対して支払うべき三億二〇〇〇万円を差し引いた金額であり、右送金によって丙土地の売買代金を抵当権抹消費用として流用することを塩沢町が了承し、丙土地の売買代金は、昭和六二年三月二四日にみのり管工から塩沢町へ支払われ、その代金が直ちに抵当権抹消のために流用された旨主張する。

原告が抵当権抹消として右送金を行ったとする趣旨は、本件争点との関係で必ずしも明確ではないが、それが、塩沢町が丙土地の売買代金を現実に受領したとの事実又は現実に売買代金の受領がないとしても、法律上は受領があったと評価すべきであるとの点をうかがわせるべき事情として主張しているものだとすれば、次のとおり、原告の右主張は採用できない。すなわち、前記一1(四)認定の事実によれば、原告のインターナショナル・ファクタリングに対する債務については、原告の借入れ当初から、富士建設が元本、利息等を含めて弁済することとされていたと認められること、そのための弁済資金としては主としてみのり管工(富士建設)が丙土地を武田住宅に転売した売買代金をもって当てることとされていたと認められること、これに加えて、武田住宅の残代金支払日は、昭和六二年三月二四日と予定されていたことに照らせば、原告は、何故に同月一九日に被担保債権額八億二八八四万円に満たない五億八八四万円を塩沢町に送金する必要があったのか、その合理的説明が全くできないといわざるを得ない。また、仮に、原告主張のように、右債務については、原告自身が弁済を要するものであり、原告において塩沢町が丙土地を売却するまでの間に丙土地に設定された抵当権の抹消をしなければならない必要があるとしても、原告が自らインターナショナル・ファクタリングに対する弁済等を行うことなく、被担保債権額である八億二八八四万円に満たない五億八八四万円(なお、原告は、塩沢町が原告に支払うべき南洋美術品の代金三億二〇〇〇万円を控除したというが、右三億二〇〇〇万円は、塩沢町が丙土地を売却して得る代金中から支払われる予定であったことは、原告自ら認めるところであり、塩沢町が原告からの送金をもって事前に抵当権の抹消ができないことは明らかである。なお、現実に抵当権の抹消手続がなされたのは、昭和六二年三月三〇日である。)を抵当権抹消資金として金融機関から借入れをしてまで事前に塩沢町に送金するということは、その必要性もなく、極めて不自然であるといわざるを得ない。加えて、右送金によって丙土地の売買代金を原告が抵当権抹消費用として流用することを塩沢町に了解させたとの原告の主張は、公有地である丙土地の売却代金を私人に流用させるという地方公共団体としてはなし得ないような経理処理をなさしめることになり、極めて不自然なものといわざるを得ない。

したがって、この点についての原告の主張も採用できない。

三  争点3について

証拠(原告本人尋問の結果、承認川手今朝人の証言、甲四九号証、乙二号証の一及び二)によれば、原告の所得税務代理人である樋口税理士に対し、その調査結果を説明して、修正申告をしょうようしたこと、樋口弁護士は、右説明を納得し、右説明内容を原告に伝えた上、原告に修正申告をするよう説得したこと、原告は、これに不満を感じながらも、結局は修正申告をすることに応じ、修正申告書に自ら押印して本件修正申告をしたことが認められる一方、本件修正申告が原告の意思に基づかずになされたような事情はうかがわれない。そして、前記一及び二のとおり、本件土地は一括して譲渡されたものであり、塩沢町に対する丙土地の寄附の実体はなかったものであるから、本件修正申告に明白かつ重大な錯誤があるとする原告の主張は、その前提を欠くものであり、本件修正申告が無効といえないことは明らかである。

四  争点4について

1  前記1のとおり、本件土地は一括譲渡されたものであるから、その譲渡所得は、本来、単年分の一括譲渡としての譲渡所得の申告をすべきものである。本件土地は、農地であり、農地の譲渡にあっては、農地法に定める許可又は届出がその譲渡の効力発生要件となっていることから、農地の売却による譲渡所得についての収入すべき時期は、原則として、確実に譲渡代金を請求することができる日と考えられる右許可 又は届出の効力の生じた日と当該農地の引渡しがあった日とのいずれか遅い日によるものとされている 所得税基本通達三六-一二、ただし、平成三年一二月一八日付課資3-1外1課共同「所得税基本通達の一部改正について」通達による改正前のもの)。本件土地の一括譲渡については、その引渡時期が明らかではないから、最後に農地転用の届出がなされた乙土地の届出受理の日(昭和六二年五月一四日)をもって、譲渡所得の収入すべき時期として申告するのが相当であると考えられるところ、被告署長が原告に対し行った本件修正申告のしょうようはこのような考え方に基づくものであったということができる。

ところで、本件確定申告においては、原告が本来一括譲渡として申告すべきところを、二か年分に分けて申告した結果、長期譲渡所得の特別控除を二重に控除し、甲土地及び乙土地の課税長期譲渡所得金額に応ずる所得税の計算(措置法三一条一項、ただし、昭和六三年法律第四号による改正前のもの)において、どちらにも課税長期譲渡所得金額のうち四〇〇〇万円以上以下の部分について二〇パーセントの税率が適用されたことから、四〇〇〇万円を超える部分についての税率二五パーセントとの差から生じる所得税額を過少に申告した結果となったのであるから、本件土地の一括譲渡があった以上、丙土地の譲渡はもちろん、甲土地の譲渡についても、本件確定申告における税額計算の基礎とされなかったことに正当な理由があるとはいえないことは明らかである。

また、証拠(原告本人尋問の結果、証人川手今朝人の証言、甲四九号証)によれば、川手係官ら調査担当職員は、昭和六三年八月下旬ころから、原告の所得税に関する調査を開始し、原告宅にも一回臨場して、原告及び樋口税理士立会いの下で調査を行ったこと、川手係官らは、銀行、富士建設等の関係先についても相当程度の調査を行って、本件土地の一括譲渡及び丙土地の寄附の仮装の事実を把握した上、右調査結果を樋口税理士に説明して修正申告のしょうようを行い、本件修正申告がなされたことが認められ、本件修正申告が、更正があるべきことを予知してなされたものでないといえないことは明らかである。

なお、原告は、本件修正申告は、所沢税務署との何らかの妥協あるいは合意のもとになされたものであり、更正があるべきことを予知してなされたものでない旨主張するかのようであるが、本件修正申告につき、所沢税務署との何らかの合意がなされたと認めるに足りる証拠はなく、原告の右主張は何ら理由がない。

2  そして、本件修正申告によって新たに納付すべき税額は、二億五三一三万四八〇〇円となるところ、前記二認定のとおり、丙土地を寄附したとする点について、隠ぺい仮装行為であるというべきであるから、右新たに納付すべき税額に係る過少申告加算税及び重加算税は、前記第二の三の被告ら主張と同様の計算により過少申告加算税は五二〇万五〇〇〇円、重加算税は七〇三七万四五〇〇円となる。

本件重加算税の額は、右の重加算税の額の範囲内であり、本件過少申告加算税の額は、右の過少申告加算税の額を上回るものであるが、重加算税と過少申告加算税は別個孤立のものではなく、重加算税は、過少申告加算税として賦課されるべき額に、一定の過重額に当たる金額を賦課するという法的性質を有し、その基礎となる納付すべき税額が同額である以上、本来、重加算税を課すべきところ過少申告加算税を課したとしても、そのことにより加算税の賦課決定が違法となるものではないと解すべきである。

したがって、本件賦課決定は適法である。

五  結論

以上によれば、本件修正申告の無効を理由とする原告の主位的請求及び本件賦課決定の違法を理由とする予備的請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとする。

(裁判長裁判官 秋山壽延 裁判官 竹田光広 裁判官 森田浩美)

物件目録

一 所在 所沢市弥生町

地番 二九〇一番一三

地目 畑

地積 五四七八・九〇平方メートル

二 所在 所沢市弥生町

地番 二九〇一番一六

地目 畑

地積 九一三・四〇平方メートル

三 所在 所沢市弥生町

地番 二九〇一番一七

地目 畑

地積 九一二・九五平方メートル

四 所在 所沢市弥生町

地番 二九〇一番一三

地目 畑

地積 一八二三・六五平方メートル

五 所在 所沢市弥生町

地番 二九〇一番一八

地目 畑

地積 一八二六・六七平方メートル

別表

〈省略〉

寄附採納土地実測図(省略)

所沢市弥生町2910番地

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